内容説明
私の衝動的なプロポーズに対して、長い沈黙の後とかげはこう言った。「秘密があるの」―。幼い頃遭遇したある事件がもとで、長い間目の見えなかったことのあるとかげ。そのとかげにどうしようもなく惹かれてゆく私。心に刻まれた痛みを抱えながら生きてきたカップルの再生の物語「とかげ」。運命的な出会いと別れの中に、ゆるやかな癒しの時間が流れる6編のショート・ストーリー。
著者等紹介
吉本ばなな[ヨシモトバナナ]
1964(昭和39)年、東京生れ。日本大学芸術学部文芸学科卒。’87年「キッチン」で「海燕」新人文学賞、’88年単行本『キッチン』で泉鏡花文学賞、’89(平成元)年『TUGUMI』で山本周五郎賞をそれぞれ受賞。海外での評価も高く、イタリアのスカンノ賞、フェンディッシメ文学賞、カプリ賞など受賞。『アムリタ(上・下)』(紫式部文学賞)『不倫と南米』(ドゥマゴ文学賞)など著書多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
208
表題作を含む6つの短篇を収録。いずれも、どこかクールな抒情が漂う。およそ、若い女性につけられるニックネームとも思えない「とかげ」は、そのつかみどころのなさと、いい意味での冷やかさが独特の世界を作り出している。後に改作された「ひとかげ」では、どんな変貌を遂げているのか楽しみだ。他の5篇も素材は違うが、なにがしかの共通項を持っている。あるいは、「血と水」にいう「生きているかぎり続くそのかなしみ」という言葉が、この短篇集に共通する性格であるかもしれない。2012/06/25
おしゃべりメガネ
186
ばななさん真骨頂の再生モノ短編集です。出てくる人間の闇な部分の描写もリアルで、ばななさんはホンワカものばかりではないんだなと改めて敬服しました。どの作品もどこか陰のある人物を軸に書かれてますが、不思議と読んでいてダークなキモチになることはなく、むしろ「あるある、わかる」とスキッと共感連発です。表題作「とかげ」の不思議な主人公の魅力は満載で、「キムチの夢」は儚くもなんか笑ってしまいます。そして何より秀逸なのは「大川端奇憚」で、とにかくエンディングが素晴らしすぎで、久しぶりにジワ〜っときてしまいました。2015/06/16
ミカママ
173
気が付くと再読だった。あっさり読めたのでよしとする。ご本人のあとがきにあるように、どれも癒しと時間と運命、宿命の物語だそう。すてきな表現がたくさんあった。ばななさんはほんと、女心を描かせたら上級だよなぁ。2013/03/31
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
167
ばななさん初期の6篇の短編集。 どれも叫びたくなるくらい差し迫ってくる心象風景。車窓から通り過ぎる街並み、地元の駅の仄かな賑わいたち。どこまでも透明に透き通る秋空。夜に煌めく店の灯りたち、いつも風景の片隅で静かに流れる川の水の気配。そういうものだったりが、いろんな関わった人の善意と悪意とないまぜに自分だけの景色になる。そういうものたちが、時を重ねあった人たちが、少しずつわたし達を強くする。 収録作品: 新婚さん/◎とかげ/◎らせん/キムチの夢/◎血と水/大川端奇譚 「たとえて言えば、気持ちのいい春の宵、→2018/12/10
かみぶくろ
119
柔らかいのに芯がある。温かいのにときどき不意打ちみたいにヒヤッとする。そんな感じ。すごく好き。2017/02/18