内容説明
南洋の島国ナビダード民主共和国。日本とのパイプを背景に大統領に上りつめ、政敵もないマシアス・ギリはすべてを掌中に収めたかにみえた。日本からの慰霊団47人を乗せたバスが忽然と消えるまでは…。善良な島民たちの間でとびかう噂、おしゃべりな亡霊、妖しい高級娼館、巫女の霊力。それらを超える大きな何かが大統領を呑み込む。豊かな物語空間を紡ぎだす傑作長編。谷崎潤一郎賞受賞作。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
遥かなる想い
164
池澤 夏樹ファンが必ず推薦する本書を読んだ。 ファンタジー好きな人にはお薦めだと思う。 南洋の国にいるような楽しい気分にさせてくれる。第29回(1993年)谷崎潤一郎賞受賞作品。
tototousenn@超多忙につき、読書冬眠中。
93
南洋の島国ナビダード民主共和国。 その大統領マシアス・ギリの栄枯盛衰物語。 といってもほぼ「栄盛」物語。 幻想と現実が融合した魅惑的なストーリーが展開される。 ラストで語られるセリフ 「すべてよき物語は明けがたの薄明の中から立ち現れるものだ。」が非常にお洒落。 ☆5.02021/02/11
mocha
77
ナビダード共和国大統領マシアス・ギリ。大国日本を後ろ盾に辣腕を奮いながらも常に迷い、亡霊に、娼館の愛人に、巫女に答えを求める。南洋のスピリチュアルな風が吹く島国では、彼がもたらした〈文明〉も思いがけないカタチに変質していく。日本人慰霊団を乗せて失踪したバスの「目撃リポート」がどんどん荒唐無稽になっていくのが面白かった。マシアスを筆頭に登場人物がみなとても魅力的で、心理描写と神秘性、トロピカルな風景が織りなす世界を堪能した。2021/07/06
metoo
71
長い物語。時にうんざりするほど回りくどく冗長。これでもかと重ねる言葉の積み木。重ねても重ねても倒れない微妙なバランス。もういい加減にしてと放り出したくなる絶妙なタイミングでグッと引き寄せる。最後まで読んで、なるほど、これは、I・W・ハーパーの12年物をテーブルに置いてロックでダラダラと飲み続けながら、小さな南の島に、ある大統領が生まれ失脚するまでを、うだうだと雄弁にロマンティックに時として人間臭く話し続けた、この事件当事者二人の語りを綴っただけなのね。また始めからこの壮大なお話にロックで付き合いたくなる。2016/03/20
NAO
59
古くからの霊が息づく島国に生まれたマシアス・ギリは、近代的で合理的なものの考え方をする、この島の住人としては新しいタイプの人間。その一方で、彼は、亡霊と対話できる力も持っている。だが、権力に溺れているうちに島に働く霊たちの暗黙の示唆を読み取れなくなってしまう。そして、島のことを考えなくなったマシアスに宣告される死。成り上がりの大統領が権力の座を登っていく姿、小さな島国が国際政治の力学の中で右往左往しながら危うくその地位を保っているという姿は、日本の寓意だろうか。日本もまた古来より神々の居ます国。2023/01/11