内容説明
満州で敗戦を迎え、夫と幼い娘と共に必死に引揚げてきた二十歳の綾子は、故郷高知県の仁淀川のほとりにある夫の生家に身を落ち着ける。農家の嫁として生活に疲れ果てて結核を発病した綾子に、さらに降りかかる最愛の母・喜和と父・岩伍の死。絶望の底で、せめて愛娘に文章を遺そうと思い立った綾子の胸に「書くことの熱い喜び」がほとばしる。作家への遙かな道のりが、いま始まった―。
著者等紹介
宮尾登美子[ミヤオトミコ]
1926(大正15)年、高知市生れ。17歳で結婚、夫と共に満州へ渡り、敗戦。九死に一生の辛苦を経て’46(昭和21)年帰郷。県社会福祉協議会に勤めながら執筆した’62年の「連」で女流新人賞。上京後、九年余を費し’72年に上梓した「櫂」が太宰治賞、’78年の『一絃の琴』により直木賞受賞。他の作品に『序の舞』(’82年刊、吉川英治文学賞)など
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感想・レビュー
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yoshida
114
満州から何とか引揚げた綾子。夫である要の実家に戻るも、慣れぬ農家の暮らしと過労から病魔が襲う。頼るは継母の喜和。その先に待つ数奇な運命。宮尾登美子さんの自伝的作品。要の実家の働きぶりや風習に、私の実家も当時はこのようではなかったかと思いを馳せた。私の実家の離れにも長持ちがある。かつての祖父母の部屋にも箪笥があった。気には留めなかったが、いま思えば長持ちや箪笥にも持たせた親の想いがあったろう。勤勉に働いていた私の祖母の姿が、いちと重なる。成さぬ仲である喜和の綾子への愛情が胸を打つ。重厚感と愛情に満ちた傑作。2020/12/27
ソーダポップ
39
自伝四部作最終作。夫と共に乞食同然の姿で満州から引き揚げてきた20歳の綾子は、仁淀川のほとりの夫の生家で暮らし始める。極限状態に置かれた人間のエゴイズムと生き延びるため懸命にもがく姿を赤裸々に描いた作品で、農村の因習と病に苦しみながらも書くことに生き甲斐を見出し成長していく姿に深い感銘を受けました。「櫂」「春燈」「朱夏」そしてこの「仁淀川」四作品ともとても素晴らしい著書でした。2023/01/01
まあちゃん
38
連作「櫂」「春燈」「朱夏」の最後「仁淀川」をついに読了。ほんと、なんて素敵な作家さんだろう。前のめりで読み進んだ。私小説。満洲から乞食さながら戻った後は、夫の実家のある農村の因習に苦しめられる。母の喜和と父岩伍との死別。その後離婚、再婚、借金、夜逃げなど簡単に後の様子が語られる。喜和が岩伍と離婚後、病弱を吹っ飛ばしうどん屋を繁盛させたのには驚いた。喜和の綾子への深い深い愛情に、櫂から始まる一連の作品で一番胸打たれた。2015/11/11
カザリ
36
だらだらして読みずらい、と思いつつ、喜和との別れのシーンは泣けた。ストーリーというより、感情を丁寧に描ていていて感動する。もうそれだけで、いい。実は、映画で櫂を見て、そういえば宮尾作品読むか程度の知識しかなく、今日本棚で母の蔵書にこれがあり、めくったら、綾子が主人公でかなり驚いた。すごく、うれしくて、綾子!ここのおったんか!と感動して一気読み。なんというか、すごくよく知っている人間という気にさせられる人物を造形するのが本当にすごい。喜和に会いに、これから櫂を読みます。2016/07/02
KEI
34
本作は綾子が満州から無事に戻り仁淀川を見て日本の緑溢れる様に感動する場面から始まり、その表現が見事だった。乳母日傘で育った綾子が農村の生活で次第にうっ屈していく様や、働き者の姑への反発や尊敬というか敵わないなと思う気持ち、それがなさぬ仲の貴和への甘えも加わり次第にあの様(離縁)な形に変わっていったのだろう。著者の自叙伝的小説でかなりご自分を厳しい視点で捉えている印象を受た。「櫂」からこの4部作を読んで、戦前から戦後の人々の暮らしの差や軍国へ移り行く様、その中で成長していく綾子がきっちり描かれていると思った2021/07/26