内容説明
「知り合いから妙なケモノをもらってね」篭の中で何かが身じろぎする気配がした。古道具店の主から風呂敷包みを託された青年が訪れた、奇妙な屋敷。彼はそこで魔に魅入られたのか(表題作)。通夜の後、男たちの酒宴が始まった。やがて先代より預かったという“家宝”を持った女が現われて(「水神」)。闇に蟠るもの、おまえの名は?底知れぬ謎を秘めた古都を舞台に描く、漆黒の作品集。
著者等紹介
森見登美彦[モリミトミヒコ]
1979(昭和54)年、奈良県生れ。京都大学農学部大学院修士課程修了。2003(平成15)年、『太陽の塔』で日本ファンタジーノベル賞を受賞し、作家デビュー。’07年、『夜は短し歩けよ乙女』で山本周五郎賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
815
森見登美彦はこれが7冊目。ただ、時系列に読んでこなかったので多分に直感的な言い方にならざるを得ないのだが、これまでに私が読んだ森見作品とは大いに違っていた。すなわち「大化け」である。既読のものは京大バンカラ小説、もしくはその延長上にあった。ところが、ここに来ていきなりこれである。幾分かは通俗的ではあるものの、これらはまさしく鏡花あるいは澁澤の衣鉢を継ぐ系列に位置するだろう。とりわけ表題作はそうだ。他の作品も悪くはないが、評価は概ね並んでいる順ということになりそうだ。表題作は今後への期待を大いに抱かせる。2019/06/07
青葉麒麟
451
前に読んだ底抜けに明るいイメージしか無かった『太陽の塔』に比べるとここまで作風が違っていて吃驚。同じ京都が舞台なのにね。京都は歴史があって華やかなイメージしか無いけれど、町の奥手にはこんな雰囲気が漂ってそう。あのケモノは鱗があるんだ。自分の中では艶やかな毛並みで想像してた。2013/07/21
射手座の天使あきちゃん
413
えっ、何? 「もりみー」さん、いつもの奇妙奇天烈、抱腹絶倒と雰囲気違ってるよ! 4つ短編に共通する言葉は、京都の町屋、面妖、生臭い、骨董「芳蓮堂」、胴の長いケモノ・・・ 4つのお話が微妙に繋がって、でも「すりガラス」越しに物を見ているようで今一つ意味不明な、なんとももどかして、でも好きな感じですぅ!!(笑) 文庫なのに解説無し、誰か解説して下さい! m(_ _)m (笑) 2010/10/21
ソルティ
385
森見さんやはり独特。登場人物の感情が今ひとつ読めないが、古風な日本の、薄暗い感じの、ケモノや魔や神など不思議なものについて日本的な美しい情景をふんだんに盛り込んで書いている。この雰囲気はとてもいい。短編集で話自体は難解で起承転結の結、いわゆるオチがあるようなないような。雰囲気を読み取ればオッケーのような感じ。「西瓜の水っぽい匂いを嗅ぎながら空を見上げると、民家の青い瓦屋根の向こうに、夕焼け色に染まった入道雲が天を突くように盛り上がっている。なんだか自分が夏休みを過ごす小さな子どもになったような気がした。」2020/03/03
佐々陽太朗(K.Tsubota)
374
森見氏の小説の常として京都ものである。しかし、氏の他の小説と違ってちょっと怖ろしい怪談ものになっている。現代にあってもそこかしこに古さの残る街には、ちょっとしたきっかけで怪しい世界に足を踏み入れてしまいそうな危うさがある。何と言ったらよいのだろう、目には映らず普段は気づかないがもののけの住む異相世界があり、何かの弾みに人が迷い込んでしまう怖さのようなもの、森見氏はこの短編集でそんな世界に読者を誘ってくれる。2010/06/07