内容説明
身体を悪くして以来、すさんだ日々を過す鳶の安蔵。妹みゆきは、兄の立ち直りを心の支えに、苦界に身を沈めた。客のあい間に小銭をつかみ兄に会うみゆき。ふたりの背に、冷たい時雨が降りそそぐ…。表題作のほか、『雪明かり』『闇の顔』『意気地なし』『鱗雲』等、不遇な町人や下級武士を主人公に、江戸の市井に咲く小哀話を、繊麗に、人情味豊かに描く傑作短編全7話を収録。
著者等紹介
藤沢周平[フジサワシュウヘイ]
1927‐1997。山形県生れ。山形師範卒業後、結核を発病。上京して五年間の闘病生活をおくる。’71(昭和46)年、「溟い海」でオール読物新人賞を、’73年、「暗殺の年輪」で直木賞を受賞。時代小説作家として、武家もの、市井ものから、歴史小説、伝記小説まで幅広く活躍
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感想・レビュー
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ミカママ
481
【海坂藩城下町 第5回読書の集い「冬」】参加作品。冬の昼日中、周平っちの市井モノを読むと、心がしみじみしてくる。女性主人公のものが殊に好き。どの主人公もキリッと男前で、筋がシュッと通っていて、たくましいながらも思いやりにあふれている。男性主人公でカッコよかったのは『果し合い』。58歳、脚を悪くした一族の厄介者が、唯一愛情をもって接してくれる姪のために一肌脱ぐことに、、、。奇しくも周平っちのお誕生日(現地時間)に読了できたことに感謝。 https://bookmeter.com/events/70642019/12/26
ねこ
164
藤沢周平の本2冊目。読友さんに勧められてこの本を読みました。江戸時代の下町。下級武士や市井(しせい)の庶民など社会的弱者が主人公のお話が7篇。読んでいると江戸時代のぬくもりや時代の空気感が感じられます。現代とは違う風習や慣例、しきたりが有りますが、そんな狭い世界の中で皆、精一杯生きている時代だったんだと感じました。そして基本ハッピーエンド。読了後はホッコリした気持ちになれます。私は「果し合い」、「意気地なし」、「鱗雲」が好き。2022/11/17
ちょろこ
139
沁み込んでくる一冊。初の藤沢周平さん、好みの世界観だった。どの言葉も情景描写もスッと心に沁み込むのが良い。まるで雨のしずくがアスファルトではなく、土に自然に沁み込む、そんな感覚。それが心地よい。どの話も暗雲立ち込めるかのように不安感で心をぎゅっと締めつけながらも、スッとその締めつけから解放する。その瞬間を何度も味わう。クセになるこの心地よさはまさに心だけで感じられるような珠玉の短編集。表題作はもちろん、自分の落ち着き場所を得る様が胸打つ「意気地なし」と、心を優しく時に強く揺さぶる「果し合い」がお気に入り。2022/08/20
じいじ
102
11年ぶりの再読。どれも悲しめの話だが、将来へ向けての明るい期待と周りの人たちの人情味に心打たれる短篇集です。【雪明かり】(講談社版『雪明かり』も読了)は、3度目ですが、何度読んでも新たな昂奮が湧いてくる大好きな作品です。下級武士の次男坊で、食い扶持を減らすのために養子に出される主人公・菊四郎の恋物語。その恋の行方が気になります…。【表題作】は、貧しい市井の「兄妹愛」を描いた作品。まともな時分は、真面目に働く鳶職の兄が、足を折って…。妹を食い物にする兄の改心は本物なのだろうか?2023/01/06
タイ子
98
7つの短編集。珍しくどれもハッピーエンドもしくはそれを想像させるラスト。表題の「時雨のあと」がいい。博奕にハマって借金を重ねるたびに妹に金をせびりに行く兄。商売に必要な金だと嘘をつき、女郎に身を落としてまで兄のために金を出す妹。いつかはバレる嘘なのに…。兄の真実を知った妹は…。「意気地なし」が一番好き。長屋の隣に住む男、妻が乳飲み子を残して死んだ。うだつの上がらない男の姿にだんだん惹かれていく女。好きな男が次第に色褪せ、意気地なしの男の方が気になり始め女が取った結末は…。男女の機微の表現が巧すぎる。2022/08/08
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