内容説明
奥穂高の難所に挑んだ小坂乙彦は、切れる筈のないザイルが切れて墜死する。小坂と同行し、遭難の真因をつきとめようとする魚津恭太は、自殺説も含め数々の臆測と戦いながら、小坂の恋人であった美貌の人妻八代美那子への思慕を胸に、死の単独行を開始する…。完璧な構成のもとに雄大な自然と都会の雑踏を照応させつつ、恋愛と男同士の友情をドラマチックに展開させた長編小説。
著者等紹介
井上靖[イノウエヤスシ]
1907‐1991。旭川市生れ。京都大学文学部哲学科卒業後、毎日新聞社に入社。戦後になって多くの小説を手掛け、1949(昭和24)年「闘牛」で芥川賞を受賞。’51年に退社して以降は、次々と名作を産み出す。「天平の甍」での芸術選奨(’57年)、「おろしや国酔夢譚」での日本文学大賞(’69年)、「孔子」での野間文芸賞(’89年)など受賞作多数。’76年文化勲章を受章した
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感想・レビュー
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ミカママ
303
縁あってここ10年ほど毎年のように訪問している上高地で、この作品を教えていただきました。馴染みのある地名がたくさん出てきて嬉しかった。残念ながら、私には冬山どころか本格的登山の経験すらないので、主人公たちの気持ちや行動を理解するのは難しかったけれど。それに振り回されてるように思える女性陣が不憫で。山ってやっぱり男性の世界なんでしょう。今年は是非、徳沢園まで足を伸ばしてみたいです。長年積んでたけれども、今年の帰国前に読めてよかった(・ω・)ノ2016/05/30
ehirano1
166
著者の作品は「敦煌」以来です。濃厚な読書となりました。これは一体誰の物語なのか?が終始付き纏い飽きることはありませんでした。2019/04/06
雪風のねこ@(=´ω`=)
153
恥ずかしながら初読。その時代を多彩で豊かでそれでいて簡潔に滑らかに、自然であろうが社会であろうが描写する筆致はとても素晴らしい。魅力ある人物が正に生きているかの様に感じた。だからこそ十章の最後は衝撃的であった。昨今のトレンディノベルに冒された脳が生み出した甘い観測は、打ち砕かれてしまった。涙は湧かなかった。湧くより先に鉈で断ち切ったかの様に、感情が、意識が切れてしまったのである。若い生命を美しいまま、そのままに止めて閉じ込めて仕舞ったかの様に感じた。かくも自然は恐るべきものである。それを忘れてはならない。2018/07/23
takaichiro
120
文庫600ページ強の井上靖の大作。1958年映画化。登山を愛する親友二人。ある日の穂高で前をリードする親友が滑落。主人公とザイルで体を繋いでいたが、そのザイルは切れてしまう。常識的にザイルが切れるはずはなく、自殺か、主人公がザイルを切断したのではとの憶測も。この事件を軸として、大人の男女の恋模様や、一方で男社会の小競り合いなどを丁寧且つスローに絡めていく。最近のスピーディーな小説より重厚、でも明治の文豪の様な修飾語満載の文書とは違うテースト。時間をかけて作り込んだ濃厚スープの様な本格小説。一気読みでした。2019/08/25
じいじ
109
614Pの長編大作。つぎつぎに沸き起こる謎・なぞ。ナイロン製ザイルは何故切れたのか? 小坂乙彦の遭難事故は自殺だったのではなかったのか? 魚津恭太の人妻・美那子への思慕は?……とても奥が深い物語です。2020/02/19