出版社内容情報
美しい少女を見ると、憑かれたように後をつけてしまう男、桃井銀平。教え子と恋愛事件を起こして教職の座を失ってもなお、異常な執着は消えることを知らない。つけられることに快感を覚える女の魔性と、罪悪の意識のない男の欲望の交差――現代でいうストーカーを扱った異色の変態小説でありながら、ノーベル賞作家ならではの圧倒的筆力により共感すら呼び起こす不朽の名作である。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
336
川端の実験的な小説。手法的にはジェイムズ・ジョイスやヴァージニア・ウルフが試みた「意識の流れ」によるものとされる。小説は銀平を主人公として、一応は客観体で描かれながらも、時間や彼の意識は、現在、久子との想い出を追想する近い過去、そして彼の幼な馴染みであるやよいと過ごした少年時代とを絶えず行き来し、また揺曳する。そして、いずれの時間軸にも少女を求める銀平がいるのだが、そこには一切の目的はない。銀平は、いわば空夢の中を彷徨うのであり、その彼の意識を追体験する我々読者もまた、前途のない思いに捉えられるのである。2014/07/23
だんぼ
268
「あぶなかったなあぁ」そう思うことがある、「その清らかな目のなかで泳ぎたい」川端康成の迷い、これもいいなあぁ、と思う2023/09/22
Die-Go
165
ばっさり言うと、ストーカー気質の元高校教師が複数の女性の後をつけて妄想を膨らませるお話。正直、読後感は良くない。しかし、やはり川端康成、読ませる力は強い。★★★☆☆2016/09/13
藤月はな(灯れ松明の火)
121
美しい女しか興味が湧かず、そんな女に出会うと後を付け廻す銀平。この銀平が堪えようもなく、気持ち悪い。付け廻していた女性からハンドバックで殴りつけられるという場面でその距離感の近さを想像して怖気が奔るしかない。それを相殺するのが自然描写の美しさなのだろうが、この男は紛れもなく、変態だ。しかも教師時代に教え子とも関係を持ち、その後の相手の事を心配せず、反省もしない救いのなさ。どうして紫式部といい、谷崎潤一郎やナボコフといい、味わい深い美文だと言われる文豪作品の男共は気持ち悪い奴が多いのだ!2017/10/16
青蓮
115
美しい少女を見ると憑かれたように後をつけてしまう男、桃井銀平。彼の異様な欲望は変態的であるにも拘わらず妙な切なさを感じてしまう。見知らぬ好ましい人、綺麗な人に行きずりに出会って行きずりに別れてしまったら、もう二度と見かけることは出来ないーーこの物語は銀平が抱える寂寥感や彼の意識の中で展開される夢幻の断片が重なり混じり合って非現実的な日常へ、彼の胸裡にある原風景のみずうみの向こう岸へと流れていく。結末はまるで美しい夢から覚めたような虚無感がある。銀平は再び綺麗な夢幻の世界に埋没することは出来ないように思う。2019/03/10