内容説明
2500年の長きにわたって、人間の知をあざ笑いつづけてきたゼノンの逆理。その謎が精緻に解かれた時、行く手に姿を現した巨大な暗影とは―。白熱の哲学エッセイ。
目次
プロロゴス 原風景
第1章 4つの逆理
第2章 飛ぶ矢は飛ばず
第3章 アキレスは走った、が走らなかった
第4章 多の本性
第5章 パスカルの眼
第6章 エレア学派と現代思想
エピロゴス アキレスとその影
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
夜間飛行
75
飛ぶ矢は静止しているとか、アキレスは亀に追いつけない…という逆理で知られるゼノンの思考を丁寧に跡づけていく。どうやらゼノンは「多」=複数性を問題にしたようだ。ゼノンに反駁し続けたベルクソンの《初めに諸項を区別し、次いでそれらが占める場所を比較することなしには、その間に順序を定めることができない》という言葉が、ゼノン批判に対する逆批判になっているのが面白い。著者によればゼノンとベルクソンは西洋哲学の主流に挑み続けた戦友だそうである。ゼノンの師パルメニデスの真意に迫っていく辺り、難解ではあるが迫力満点だった。2017/08/07
karatte
6
江古田のブックオフにて購入。山川偉也先生の著作を読むのはこれで4冊目となる。ゼノンの主張が師パルメニデスの擁護に起因するものであったことは『古代ギリシアの思想』でも触れられていたが、ここではフーコーの「知の考古学」に倣い、古今東西様々な"論敵"らの駁論を取り上げ検証し、ゼノンしいてはエレア学派の思想を掘り起こすのみならず、それを"推理小説のように面白く、平易"な表現で一般読者に提示するという難業に挑んでいる。ピュタゴラス派、《パスカルの眼》及びベルクソンの章に見るべきものが多かった。2013/12/21
きつね
3
夢のような一冊。ゼノンの有名な「アキレスと亀」、理屈はわかったつもりでいたけど、とんだ思い違いをしていたことに気づかされました。彼がその議論の先に、何を言わんとしていたか? 原典解釈と再構成、図解、ときにユーモア、そしてエピローグは天窓を開くように詩が紡がれる、そんな贅沢なエクリチュール。お師匠さんのパルメニデスから、ゼノンにたえず言及したベルクソン、その流れをくむ現代思想にも繋がっていきます。テーマは時間、空間、運動、線と点などの形而上学的考察から、分析的思考への批判、人間存在と世界、一なるもの、など。2012/03/04
田蛙澄
2
時間の原子論について考えていた時にゼノンのパラドクスが関係あるなと思ってあれこれ考えていて気になったので読んだ。ゼノンをパルメニデスの一を継承する論者と考え、パラドクスを運動と多を論駁することで論理的に一を背理的に証明するものとし、無時間的なパルメニデスの思想も紹介しつつ、近代的時間批判としてのベルクソンとの共通点や、2分割的なデカルト的思惟やパスカルの眼の問題点や、ピタゴラス学派的点存在論がユークリッドを経由して近代科学の空間や時間の思考を支配しているパラダイムとなっている点の指摘など面白かった。2018/12/10