内容説明
優しさを押し売りする若者を痛烈に批判する中年のディスク・ジョッキイ、テディ・ベア(「金魚鉢の囚人」)、雨もよいの逗子のリゾート・ホテルを舞台に、抑制のきいた文章で綴る鬱屈した人々の一夜(「ビートルズの優しい夜」)、一九六〇年代から八〇年代の“現実”を描き、漂うように生きる主人公たちの心に蟠っている信じきれぬものを抽出。ほかに表題作、「息をひそめて」、「パーティー」の傑作五篇。
著者等紹介
小林信彦[コバヤシノブヒコ]
1932・12・12~。小説家。東京生まれ。早大文学部英文科卒。1955年「近代文学」3月号に「白い歯車」を掲載。58年江戸川乱歩に推され中原弓彦の筆名で書評などを書き、「ヒッチコック・マガジン」編集長となる。64年『虚栄の市』、65年『汚れた土地』刊。66年『冬の神話』刊、この時より筆名が本名の小林信彦になる。69年児童向け小説依頼で『オヨヨ島の冒険』刊。73年、『日本の喜劇人』により芸術選奨新人賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ホッタタカシ
3
小林信彦には映画、文学、ミステリ、喜劇、10代のころからいろいろなことを教えてもらったが、私小説についても、導き手だったことを改めて思い出した。“物語”に惹かれて英米文学を学んだ小林が、なぜ私小説に早くから接近しているのかはよくわからないのだが、批評的な“小林タッチ”で描かれる芸能界、出版界の人物像がみな物悲しいのが印象的。複数の主人公たちが抱く「取り残された感」がいよいよよくわかる年頃になってしまった!2012/08/03
ゆーいちろー
1
作者の私小説的な作品が多く収録されている。巻末の自筆年譜と照らしてこの頃の話だな、などと単純に結びつけるのは良くないと頭ではわかっていても、ついついそんな読み方をしてしまったりもする。作中では「パーティー」がひどく印象に残る。時流に乗り遅れて、苛立ち、焦ってはいるものの、どこか醒めて投げやりな主人公に、わたしはひどく共感してしまうのだ。「この作家は自分に向かって作品を書いてくれている」とは作者がある作品内で用いた太宰評だが、まさしくそんな心境に陥ってしまうのだ。2010/11/04
KYOKO
0
たんたんとした感じ。2016/03/17
笠井康平
0
「それでもどうにか食べていかねばならない」の憂鬱。2011/06/27
テキィ
0
小林信彦を久しぶりに読む。この人の小説は、なぜか昔から心に陣割として深い印象を残す。自分が関西で何十年と暮らしても、やっぱり関東の人間なんだなと思う。そういう気持ちを再認識する本。2008/08/10