内容説明
「父を売る子」他、肉親を仮借なく批判した〈私小説〉を執筆、一族の血の宿命からの脱却をギリシャ的神話世界に求めた異色の作家牧野信一。処女作「爪」を島崎藤村に激賞され、空想と現実の狭間で苦悩し自死した先駆的夭折作家の、12篇を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ネムル
12
岩波文庫の『ゼーロン・淡雪』が牧野大傑作選なら、こちらは初期の私小説からギリシャ牧野への転身、そして晩年と幅広く著者を知れるセレクトになっている。ただしまあ、やはり面白いと思ったのは「酒盗人」や「泉岳寺附近」あたりになってしまうのだよな。宇野浩二に目をかけられ、「風博士」を評価したことで安吾の作家の入口を作ったというあたりに、メランコリーの系譜をみる思いだ。2020/03/17
ステビア
11
幻想的な「ギリシャ牧野」の時期も良いが、後期の衒いのなくなった私小説群が気に入った。2018/06/03
か亮太
1
私が好きなのは、いわゆる「ギリシア牧野」だ、だからどうせ、と、本書にはあまり期待できないのは判って、しかし牧野を求めて再読したが、案外、死の前年作「裸虫抄」では、びくびく怯えている主人公の描写の、ほとばしり、凄いものがあった。文体が時によってこうも変わるのが、またお坊ちゃま気質の所以かと思わされるが、私は牧野を読めば、「奇を衒う」という言葉をちらりと浮かべてしまいつつも、反発を覚える。さも「衒わない」ことを「むしろ」衒っているものよりも、極限までに衒って酔って狂ってほしい。牧野こそ、それ。2014/03/19