出版社内容情報
【内容紹介】
激しい恋の情熱、みずみずしい自然の感動、また、悲運に立ち向かう傷ましい魂のおののき。あえかな美をいつくしむ心、そして、健やかな哄笑――。『万葉集』20巻のうちに見出されるのは、上代日本人のひたむきな生活と心情である。本書で著者は、1つ1つの歌を手がかりに、現代に生きる私たちと少しもかわらぬ古代男女の喜怒哀楽の劇をとらえ、その生の種々相を描き出す。万葉びとの美と心を興味深く、親しみやすく説いた好著。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
うえ
7
「万葉集の歌は、わが国最初の抒情詩として、自己の真実な切迫した感情をひたむきに表白したものであるという不文律が、いつのまにか出来てしまった。そのような真率な詠嘆性が万葉集の崇拝と市民権とを得てきて、まことに久しい。これには明治以後の、何といっても正岡子規の主張を受けついだアララギ系の歌人たちによる万葉観の影響が、きわめて大きかった…それだけに一方では、近年の万葉研究は、このアララギ的万葉観をあらゆる面で克服し、否定する方向に進められてきた…万葉集は…深刻な、純粋な詠嘆の歌ばかりで一貫しているのではない」2018/12/26
のむ
2
「笑い」の章に拠ると、本来歌垣において詠まれる歌は相手に言い勝つこと、相手を凹ますことを旨とし、歌垣は恋をかけた罵り合いの決闘場だったらしい。要するにフリースタイルダンジョン、ラップバトルである。鏡王女と中臣鎌足、天武天皇と藤原夫人の機知諧謔に満ちた愛あるやり合いを見せられると納得するような、そうでもないような。でも非常に面白い見方であることは間違いない。「ラップこそ日本で一番まともな音楽」と言い切る美ー子ちゃんに教えたくてたまらない。2018/06/03