出版社内容情報
【文学/日本文学小説】北関東のある県で中学2年生の男子生徒が転落死した。事故か? 自殺か? それとも──。その背景には陰湿ないじめがあった。町にひろがる波紋を描くことで、地方都市の精神風土に迫る。朝日新聞連載時から大きな反響を呼んだ大問題作の文庫化。
内容説明
北関東のある町で、中学二年生の名倉祐一が転落死した。事故か、自殺か、それとも…?やがて祐一が同級生からいじめを受けていたことが明らかになり、家族、学校、警察を巻き込んださざ波が町を包む…。地方都市の精神風土に迫る衝撃の問題作。
著者等紹介
奥田英朗[オクダヒデオ]
1959年生まれ。作家。プランナー、コピーライターなどを経て、97年に『ウランバーナの森』でデビュー、創作活動に入る。2002年に『邪魔』で大藪春彦賞、04年に『空中ブランコ』で直木賞、07年に『家日和』で柴田錬三郎賞、09年に『オリンピックの身代金』で吉川英治文学賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
🐾Yoko Omoto🐾
178
この物語に出てくる登場人物は、平凡な日常を送るどこにでもいるような普通の人たちだ。だがそんな当たり前の日常が、イジメを受けていたと思われる一人の少年の死によって激変する。物語は事件に対して通りいっぺんに誰が悪いということを断じるのではなく、関係者それぞれの視点からの心情を丁寧に描くことで、事件の背景や原因を掘り下げたものとなっている。事件の当事者たち、親、教師、警察、報道、全ての人物たちが、自分の置かれた立場によって被害者にも加害者にも変化し、重いテーマながら見事な群像劇に仕上がっている。→(続)2016/02/24
イアン
151
★★★★★★★★★☆いじめを扱った奥田英朗の長編。閑静な地方都市で男子中学生の転落死体が発見される。背中に残された無数の傷痕により、警察は未必の故意による殺人を疑うが…。遺族や加害者家族だけでなく、警察・教師・記者など総勢9名の視点から「その日何があったのか」を浮かび上がらせていく。いじめ問題や少年法にも切り込んだ社会派としての側面もあり、600ページ弱の長編ながら読み終えるのが勿体ないと思わせるほど惹き込まれた。最初は平衡を保っていた心の天秤が徐々に加害少年側へ傾いていく。その筆力はただただ圧巻だった。2023/07/25
AICHAN
135
図書館本。イジメに題材をとった作品。奥田英朗の作品では『町長選挙』や伊良部先生シリーズなど主に笑えるものを読んできたが、これは大真面目な作品。同じ作家の作品とは思えなかった。この作家のポテンシャルの高さを感じた。中学校で死亡事件が起こる。警察の取り調べが始まる。イジメをやっていたと思われる4人が逮捕・児童相談所送りになり、間もなく釈放・保護解除になる。事件は終わったかに思えた。そこからがこの作家の本領。これ以上は書くまい。映画化して小中学生たちに見せてあげてほしい。手本的な日本語なので指定図書にしてもいい2018/03/13
アッシュ姉
110
一人の中学生の転落死をめぐり、小さな町に広がる大きな波紋。死の原因を追究する捜査の過程で、浮かび上がってきたいじめの問題。子供たちは沈黙し、大人たちは翻弄される。生徒、親、教師、警察、記者など、さまざまな視点で進む群像劇で、著者は中立の立場で誰に肩入れすることもなく、丹念に描いている。話し手が変わるたびに、読み手の私は揺れ動き、いろいろな角度から考えさせられた。普通に暮らしていた人々が、ある日突然事件の関係者となって取り乱し、本来の人間性が剥き出しになっていく様子が生々しい。(コメントへ続く→)2016/01/29
ヨーコ・オクダ
93
中学校にある銀杏の木の下の側溝にはまった「ちゃま夫」の死体。自殺か事故か殺人か。学校、警察、同級生、親、検察、弁護士…それぞれの立場からの考察、判断、対応。とりあえず、ちゃま夫はおぼこ過ぎ。同級生たちは、年相応におぼこい。学校側の大人たちは、世間の大人に比べると若干おぼこい。そんな印象を受けた。で、奥田センセはご丁寧に、その他の社会の大人たちの浅はかな点、そうせざるを得ない言い訳も描いてくれている。「いじめ」自体を考えるより、根本的な部分でありながらも、大きい枠組みで考えるように諭されている気がした。2016/02/12