出版社内容情報
美桜が生まれた時からずっと母は植物状態でベッドに寝たきりだった。小学生の頃も大人になっても母に会いに病室へ行く。動いている母の姿は想像ができなかった。美桜の成長を通して、親子の関係性も変化していき──現役医師でもある著者が唯一無二の母と娘のあり方を描く。
内容説明
植物状態になった母とその娘、成長するにつれ、母の存在も大きく変化し―「生きるとは何か」を問う、静かな衝撃作。雑誌掲載時から話題、現役の医師だからこそ描けた真摯な母娘の物語。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
mint☆
141
美桜の母親は植物人間。その母のいる病室には同じように息をしているだけの人たちがいて美桜は細々と皆の世話を焼く。美桜にとっては生まれた時から母は寝たきりで、世話を焼いたり物言わない母に愚痴をこぼしたりする、それが当たり前の状態。対して他の家族は違う。いつか目を開けて話すことができると願っている。入院中の祖母が自分の酸素チューブを外して植物状態の娘に充てているシーンは胸がギュッとなった。ただそこで息をしているだけの存在が周りの人たちに様々な感情を抱かせる。淡々とした描写がとてもリアルに感じられた。2023/01/06
シナモン
140
出産時に脳出血を発症、以来植物状態になった母親深雪とその娘美桜の物語。「みお、産まんかったらよかった?」と沈黙を続ける母親に訊ねる美桜。切なくなるが母娘の場面の描写は温かくて。確かにこの二人は母娘なのだよなぁ、親子の形に正解はないのだと思った。「普段ベッドの上でほとんど動きのない五人の人間は、まるで名画の中の人物みたいだったー」騒がしい世間を離れ、静かに呼吸音だけが響く病室。でも間違いなく生きている。生きるとは究極、呼吸すること。深く心に残る一冊でした。2023/02/02
アキ
130
主人公の少女・美桜は、物心ついた時から母親美雪が病院のベッドで寝ていて、言葉は発しない植物状態。だからこそ、母親の前で嘘をついたことがない。部活で先輩から酷い扱いを受けても、その病室に行けばいつも静かで、看護師も医師も優しかった。大人になるにつれ、いつからか母に全てを報告することはできなくなっていた。そして母に終わりが訪れて、初めて感じる気持ち。「私の盲端」に引き続き、患者の側から見える世界を医師である著者が書く。医学用語を用いない物語は、病名からは汲み取ることができないその人の家族の言葉で語られる世界。2023/02/22
なゆ
127
いろんな母娘の話を読んできたけど、こんな母娘のカタチもあるのかと…読み終わってからもざわざわが残る。植物人間という言葉、よく考えると不思議。物心ついたときから植物状態の母深雪しか知らない美桜にとっては今の状態の母が母。だけど元気な頃を知っている父や祖母にとっては受け入れ難そうな複雑な心境で。病室が庭のように遊び、動かぬ母に甘えたり介助したりの美桜(思春期は凶暴に!)だけど、ちょっとやり過ぎでは?!なことも。呼吸のリズムと手をにぎってもらう、それだけなのに濃密なつながり。再婚に揺れる父もリアルだなぁ。2023/02/16
ちゃちゃ
124
母は出産と同時に脳出血をおこし植物人間となった…。ただ、大脳は壊死したが、脳幹は傷つかず生理的な反射は起こる。自分を生んだ母親が、病院のベッドに横たわり、日々呼吸し食べ眠り排泄する。その苛酷なまでの生の実態を、娘は26年間ずっと見守ってきた。母親の生は無意味なものだったのか。淡々とした筆致で作者は問いかける。娘は病院に通い、様々な思いを語りぶつけてきた。ただそこに存在しているという確かな生の実感。在り続けることの尊さ。握り返してくれる手の温もりに意思はなくとも、「私」を今まで生かしてくれる力があったのだ。2023/05/11