出版社内容情報
皇位継承者には成り得なかったにもかかわらず、藤原氏の奇計により即位した桓武天皇。長岡京、平安京への二度の遷都と、蝦夷との戦争を決断し、実弟・早良親王との骨肉の確執を乗り越えた多端な生涯を読み解く。血統に頼らず、政治的パフォーマンスに優れた「造作と軍事の天皇」の新たな実像と、日本古代史の転換点を描く。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
107
桓武天皇が奈良から京都へ遷都した背景には、皇位継承に絡む朝廷内の暗闘があったと見る。祖父が天智帝の猶子とされたため父は即位できたが、聖武帝の娘である皇后を女帝にする陰謀故に廃したおかげで桓武は皇位を継げた。しかし天智帝の系統であるのを理由に謀反が起きると、遷都により君主の権威確立を図った。皇太弟を廃除し、蝦夷と戦って東北を経営し、遣唐使を派遣したのもすべて政治的混乱の元凶である皇統=血脈問題を無意味にするためだったと。安定をもたらした桓武は確かに名君だったが、その生涯に1日たりと安寧の日はなかっただろう。2023/10/14
崩紫サロメ
18
従来、桓武天皇は天武系から天智系への回帰と位置づけられる天皇であるが、本書は桓武帝が天武系、特に聖武天皇への敬愛と憧憬を抱いた天皇であることを説く。しかし、渡来系の母を持つ桓武帝にとってより強く聖武帝につらなる皇族は多く、彼らを排除した。また平城棄都=長岡遷都は遷宮を繰り返した聖武帝に連なる正統性の誇示であったと著者は捉えている。歴代天皇の中でも稀なほど政治的パフォーマンスを重んじた天皇として桓武天皇を描き直している。2023/09/07
さとうしん
14
桓武の血統と長岡京、平安京への遷都が話の中心。蝦夷征伐の話はやや控えめ。血統については祖父の施基皇子以来、擬制的な形でも「天武系」という意識を強く持っていたこと、また同時に父・光仁と自身の婚姻によって「聖武系」という意識も持っていたことを強調。この点は学界での評価が気になる所だが。政治的なパフォーマンスを好み、自身の権威向上のために蝦夷征伐を進めたとか、『続日本紀』の著述に介入したというあたりは、李世民など中国皇帝の姿を連想させる。2023/08/22
ごん
11
桓武天皇が平安京に都を移してなかったら日本の歴史はどうなっていたのかな、とふと思ってしまいました。桓武天皇は我々が一般的に思う天皇のイメージからかけ離れた天皇ですね。むしろ中国の皇帝に近いような気がします。天智天皇、天武天皇、持統天皇、聖武天皇などの古代の偉大な天皇の事績を受け継いで、より日本という国の形を固めた偉大な天皇ということになるのでしょう。まあ、それについては異論はないのですが、著者による推論や断定が多いのがいささか気になります。この時代は資料が少ないからしょうがないのかもしれませんが。2024/04/17
fseigojp
10
この著者の言によれば、持統天皇が飛鳥から奈良への路線変更の開始者で、アマテラスに仮定される実績をもっていた2023/10/15