出版社内容情報
揖斐 高[イビ タカシ]
著・文・その他
内容説明
江戸の人びとにとって、漢詩文は、自らの存在を伝統的な美意識の世界に結びつけるものであると同時に、日々の暮らしにおけるさまざまな想い、悩み、人生の悲喜こもごもを記すための身近な表現手段でもあった。具体的な作品を読み解きながら、人びとの感情や思考のあり方を広く掬い上げ、江戸文学の奥深い魅力へと迫る詩話集。
目次
1 風雅のありか(山紫水明;凧の揚がる空 ほか)
2 文人の日常(十七世紀日本のジキル博士とハイド氏;ある聖堂儒者の生活 ほか)
3 生老病死(寿命と歎老;妻を悼む ほか)
4 人生のいろどり(犬派猫派;虫めづる殿様 ほか)
著者等紹介
揖斐高[イビタカシ]
1946年生まれ。1976年東京大学大学院文学研究科博士課程修了。日本近世文学専攻。成蹊大学名誉教授。日本学士院会員(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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崩紫サロメ
23
『江戸漢詩選』の選者が江戸の人々がどのように漢文を学び、どのような場面で漢文を用いたのか、そしてそこから見えてくる江戸の日常を綴る。本書の本題とは逸れるが、石川丈山が詩仙堂を建てるときに、誰を選び誰を外すべきか林羅山がしたアドバイスなど、江戸時代日本でどのような詩人がどういう評価を受けていたのかなど、中国文学の受容の話としても面白い面があった。また、潘岳に始まる「悼亡」詩の中国では見られないバリエーションなど、興味深い指摘がある。2022/09/13
さとうしん
18
タイトルに「江戸漢詩」とあるが、漢詩だけでなく広く漢文、俳諧、短歌なども取り上げ、漢詩文を中心とする当時の文芸よもやま話となっている。触れられる話題も、副題にある「風雅」から、夫婦愛、当時の詩人の生計、平均寿命、ペットの犬と猫、グルメなど幅広い。儒者が拳法を習った話など、意外な所で意外な話が出てきて興味を引く。漢文、江戸の文芸に興味がある人が読んで損はないだろう。 2022/09/02
そうたそ
14
★★★☆☆ 江戸時代における漢詩のあれこれ。堅苦しい話じゃなく、ごく日常的なシーンでの漢詩が扱われており、読んでみると意外とくだけた内容なのが分かる。後半のカキの話とか牛鍋の話は漢詩抜きにしてもなかなか興味深いものがあり、ちょっとした時に読むに最適な読み物かと。2022/11/19
しずかな午後
9
すごく良い。江戸漢詩には馴染みが無かったが、エッセイ集という感じで軽く楽しめた。とにかく著者の選ぶ題材のセンスが良い。「凧」「犬派・猫派」など、テーマごとに色んな人の作品を見るものや、「遊里での遊び」「大名の博物学趣味」など当時の生活を覗けるものもある。とくに好きなのは、頼山陽・川路聖謨の生き様にクローズアップした章。この二人と林読耕斎は、とにかく妻への愛情が細やかで胸を打つ。読みながら「山陽~~!」「読耕斎~~!」とその名前を叫んだ(心の中で)。漢詩ってこんなにエモーショナルなんだなという発見があった。2023/01/25
Schuhschnabel
9
芸術の秋ということで漢詩に挑戦してみようと思い、『江戸漢詩選』の導入として読んだ。あとがきによると、風雅という言葉は、もともと「外に対しては政治や社会を諷喩してそのあるべき姿を求め、内に向けては中正な感情を保持する温柔敦厚な人格を作り上げること」という意味で使われていたらしい。実際、風雅を主題にした第Ⅰ部は、俗な世間に甘んじている自分にはハードルが高かった。一方、第Ⅱ部以降は俗っぽい日常的な話題が多く、とくに「牛鍋以前」は、中学生のときに日本の肉食文化について調べたことがあるので、大変面白く読めた。2022/10/30