岩波新書
日本語と時間―「時の文法」をたどる

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  • サイズ 新書判/ページ数 223,/高さ 18cm
  • 商品コード 9784004312840
  • NDC分類 815.5
  • Cコード C0291

出版社内容情報

古代人は時間を表すのに、「き」「けり」など6種もの助動辞を使い分けた。しかもそれら助動辞は、意味・音を互いに関連させながら、一つの世界を作っていたのだ。哲学・比較言語学など大きな広がりをもった刺激的な1冊。


 新発見! 〈時の助動辞〉の豊かな世界

 英語は動詞を活用させて時制を表しますが、日本語は、動詞にくっつける「助動辞」(学校文法では「助動詞」)なるものによって、過去や時間の経過を表します。本書の主人公は、この「助動辞」です。

 現在の日本語で「過去」と言うと、もっぱら「~た」という表現を用いますが、古代人は、「き」「けり」「ぬ」「つ」「たり」「り」など、いくつもの助動辞を使い分けて生活していたそうです。「何と豊かで面倒な、かれらの言語生活であることか」、とは著者の弁。

 「文法はちょっと苦手で……」とおっしゃる方もいるかもしれません。しかし、この〈時の助動詞〉たちは、何と音や意味を関連させながら、一つの世界を形づくっていたというのですから、驚きです。著者は、それを表すモデルとして、「krsm四面体」なるものを提示します。


 これはいったい何なのか? 暗記するしかなかった文法とは全く異なり、古代日本語に行き渡る時間を整序し、哲学や言語学にもかかわる問題として捉え返す、極めて刺激的な提案であることは間違いありません。

 本書では、たくさんの具体例を詩歌や物語作品に採りながら、〈時の文法〉に迫ります。日本語の隣接語としての琉球語、動詞の活用によって時称をあらわす欧米諸言語、逆に活用のないアイヌ語や漢文、さらに係り結びや掛け詞などの技巧にも視野は広がります。

 また、古代の〈時の助動辞〉は、いかに現代の日本語に引き継がれているのか、あるいはいないのか。現代多用される「た」の成立の秘密、現代詩における時の表現の工夫など、新たな知見が満載の1冊です。


■目次

内容説明

古代人は過去を表わすのに、「き」「けり」など六種もの「助動辞」を使い分けた。ひたすら暗記の学校授業を思い出し、文法を毛嫌いするなかれ。それら時の助動辞は、何と意味・音を互いに関連させ、一つの世界を作っていたのだ。では、なぜ現代は「~た」一辺倒になったのか。哲学・言語学など大きな広がりをもつ刺激的な一冊。

目次

序章 時、もの、こと
1章 時のありか―krsm四面体
2章 遡る時の始まり―「けり」の性格
3章 過去を表示する―「き」の性格
4章 時間の切実さ―「ぬ」と「つ」
5章 古代を乗り越える力―「たり」の本性
6章 時と技巧―通時論的に
7章 言文一致への過程―「た」の成立
結章として

著者等紹介

藤井貞和[フジイサダカズ]
1942年東京生まれ。現在、立正大学文学部教授、詩人。専攻は日本古典文学、言語態分析(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

tyfk

6
『日本文法体系』を読む前にコアなところ(krsm四面体)を把握しておこうと思って読んだ。詞と辞といえばの時枝誠記の系譜ではあるけど、いろいろ違いも主張されているし、前半は大森荘蔵や廣松渉、後半では柄谷行人への言及もあって、そのあたりも面白かった。2024/04/21

本命@ふまにたす

4
日本語における、いわゆる過去をあらわす「助動詞」を題材に、文語から口語に至る流れをとらえる。多数の具体例が引用されており、ややテクニカルな感じもするが、刺激的な一冊。2023/01/03

isao_key

4
日本語の時間を表す助動詞(筆者は時の助動詞という)を取り上げ歴史的変遷と使われ方から明らかにしてゆく。「もの」の正しい使われ方について「もの」には変動のない対象、規定の事実、避けがたい定め、普遍の慣習、法則といった意味合いを受け取ることができるものとある。さらに例文「世の中はむなしいものである」「恋はわけのわからんものだ」「住まいというのは尽きないはずないのに」を引いて、不動、不変、既定、不可避の事象をものと称する。時間との関係で言えば、時間軸の上でじっと動かないのが「もの」だと見ることができると述べる。2014/10/19

うえ

3
日本文学内の日本語、その時間表現の探求。興味深い点は哲学者大森荘蔵の時間論がけっこう援用されている点。往ぬの「ぬ」や、棄つの「つ」は時制とは無関係ではないかという所から、大森の論を参照している。「大森氏には…「過去の制作」という論文もある。過去というような何かが実在すると思うのは打ち破られなければならない「常識」だとそこにはあった。論考「時は流れず」で、氏はさらに常識破りを試みる。時間とは過去と未来とのみを含む、静態的な座標であって、<運動とは何の縁もない>。運動は現在経験に有効な現象だ。」2024/03/20

miyuki

3
古典研究者である著者は、詩人でもあるからかことばへの感性の鋭さが際立ってみえる。古語の助動詞の細かな違いを通史的に説明しようと、時代を超えたさまざまなテキストが出てくるところがユニークである。現代詩を引用して古語の助動詞性のなごりをみるのはなかなかの芸当だと思った。しかし、著者の説明の意図がほんとうに伝わっているかどうか、読みながら考えてしまうところもある。それだけ古典語の助動詞の感覚は難しい。それと、ところどころ助動詞に関係なさそうな箇所もあって評価がわかれそう。詩を分析したい人は必読だと思う。2017/11/14

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