出版社内容情報
夕暮れの公園で何気なく撮った一枚の写真から,現実と非現実の交錯する不可思議な世界が生まれる「悪魔の涎」.薬物への耽溺とジャズの即興演奏のなかに彼岸を垣間見るサックス奏者を描いた「追い求める男」.斬新な実験性と幻想的な作風でラテンアメリカ文学界に独自の位置を占めるコルサタル(一九一四―八四)の代表作十篇を収録.
内容説明
夕暮れの公園で何気なく撮った一枚の写真から、現実と非現実の交錯する不可思議な世界が生まれる「悪魔の涎」。薬物への耽溺とジャズの即興演奏のうちに彼岸を垣間見るサックス奏者を描いた「追い求める男」。斬新な実験性と幻想的な作風で、ラテンアメリカ文学界に独自の位置を占めるコルタサルの代表作10篇を収録。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
buchipanda3
113
アルゼンチン人作家、コルタサルの短編集。どれも好みの作風だった。読み始めから物語に入り易く、途中からおやっと思わせる不思議な感覚が寄り添ってきて、気が付けばその世界に無理なく心が捉えられている。果たして夢なのか現実なのか。ただ、分類としては幻想小説だが、むしろ「現実の不確かさ」のおかしみがより一層浮かび上がり、根源めいた哲学的な思考に誘われる。そこに面白さと魅力を感じた。普段当たり前に見えていることが奇妙な切っ掛けで違う感覚に気付き、戸惑ったり触発されたりすることもある。そういった人間の姿が描かれていた。2021/05/11
青蓮
103
読友さんの感想より。全8編の短編集。コルタサルは初めて読みました。どの物語も非常に面白かったです。メビウスの輪のように捻れた、現実から非現実へといつの間にか変化していく幻想的な作風は不思議な味わいがありました。特に「南部高速道路」の読後の喪失感は最高でした。現代の流行りの作品は良くも悪くも映像的だけれど、コルタサルは映像にはできない、小説だからこそできる世界を巧みに構築しているように思えます。他の作品も読んでみたいです。不思議な世界を覗きたい人へお勧めの1冊。2017/07/24
(C17H26O4)
83
これは再読したいと思う。現実と非現実の境界線を超えたことが分かる話、いつの間に両者が溶け合っている話、更には非現実が現実へと入れ替わってしまった話。そして、嫌気がさしているにも拘らず、一方でその甘美さに自ら進んで夢中になり囚われているという現実から、味気ない現実に引き戻される話も。これには沼のような時間が終了してしまったみたいな妙な寂しさが残って、しばし茫然とした。確かに現実だったはずの時間、あれは何だったのだろう、というような。我に返りたいような返りたくないような。2021/03/03
HANA
61
読んでいるうちにいつしか表と裏が裏返っている、そんなメビウスの輪を思わせるような作品群。「続いている公園」「夜、あおむけにされて」や「悪魔の涎」等にそれが特に顕著で、気が付けば現実が幻想に犯されているのか、幻想が現実に犯されているのか。個人的に面白く読めたのは「占拠された屋敷」と「南部高速道路」の二編。前者の何が起きているかわからないが何かが起きている感と、後者の脱出できない状況がいつしか……という不条理感が堪らない。裏返っている事に気が付いた瞬間の眩暈さえするような浮遊感、得も言われぬ読書体験であった。2017/06/26
藤月はな(灯れ松明の火)
51
現実からふわっと浮き上がり、慣れたところで地に足がつき、よろけて脳内で無限に広がっていく世界観にただ、心地よく、眩惑されるのみでした。結末がはっきりしない小説(恩田陸さんの「ユージニア」など)が好きな方はこの本も好みかもしれません。「続いている公園」はメビウスの輪を連想し、「占拠された屋敷」は占拠していった何かの正体は分からずじまい、「南部高速道路」は動けない高速道路を舞台にした人間劇の凝縮としか言いようがありません。不変であるものはなく、現象や人の心が通り過ぎるだけだと耳元で囁かれるような作品でした。2011/12/15