出版社内容情報
人間はどれだけ「真実」に耐え得るのか.うそ偽りの上に幸福は築けないと考えるグレーゲルスは,ささやかながら平穏な生活をおくるエクダル家に「真実」をつきつける.一家の幸せは揺らぎ,一人娘ヘドヴィクは父の愛を取り戻そうと大切にしているノガモを犠牲にする決意をする.詩情あふれる象徴的写実の技巧で描かれた傑作.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
331
全5幕からなる戯曲。第1幕のみ豪商ヴェルレの家で、後は一貫して写真師エクダルの家。劇の構造は、第1幕でほぼその後の展開の予想が付き、第2幕以下はしだいに速度を上げながら、終幕に向かってゆく。したがって、劇としてのドラマ性は乏しくなりそうなものなのだが、それにも関わらず劇の頂点は涙を禁じ得ない。タイトルの野鴨は愛と慈しみのシンボルであるとともに、悲劇を背負うという両義性の中にある。インテリの理想主義と、ひたむきな愛との齟齬が描かれ、悲劇でもあり、また喜劇でもあるという様相を呈する。舞台もさぞやと思わせる。2017/10/31
新地学@児童書病発動中
108
平穏な家庭生活があっという間に崩れ去ってしまう過程を浮き彫りにするイプセンの戯曲。悲劇的な結末にインパクトがある。エクダル家が四苦八苦しながら何とか生活していく様子を、ユーモアとペーソスのある戯曲に仕立て上げることもできたはずだ。それをあえてしないで、普通の生活の中にある欺瞞を暴き出してしまうところがイプセンらしいと思う。社会の歪みを浮き彫りにするのでなく、人間の実存の哀しみを描いていくところに、文学としてのこの劇の深みを感じた。2015/06/04
たー
19
世の中には知らない方が幸せなこともあるよね(苦笑)2015/11/21
viola
17
イプセン2作目。『人形の家』よりも、現在読むなら此方の方が断然よく出来ている気がします。『人形の家』は、内容云々よりもフェミニズム的に重要・・となっている気がするから。野鴨が全てのテーマになっていることはタイトルからも当然分かりますし、グレーゲルスのくだりにしても、ああ、やっぱりこういう展開ですよね、という展開になりそうに見えて、思いもよらない展開に。黒柳徹子氏のこの帯のコメントが、これまた印象的な・・・・。2012/12/12
kozy758
15
素晴らしい読後感であった。20世紀ではなく19世紀に書かれてたとは、ショックである。現代にも通じる家族とその交友関係が精緻に描かれている。ギリシア悲劇、シェークスピアの悲劇も想起した。宿命が鮮やかに感じた。2015/03/26