出版社内容情報
少年時代からベートーヴェンの音楽を生活の友とし,その生き方を自らの生の戦いの中で支えとしてきたロマン・ロラン(一八六六―一九四四)によるベートーヴェン賛歌.二十世紀の初頭にあって,来るべき大戦の予感の中で,自らの理想精神が抑圧されているのを感じていた世代にとってもまた,彼の音楽は解放のことばであった.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
のっち♬
143
少年時代以来その音楽に救われてきたベートーヴェンは著者にとって魂の伴侶であり、人生と人類への愛の輝かしい象徴だった。鳴ってるつもりでピアノを弾いていたり、即金送付で咽び泣いたりと胸を打つ逸話や文献・書簡の抜粋は運命と戦うベートーヴェンの魂の叫びを濃密に抽出している。追求される創造的要素は『ジャン・クリストフ』への布石となる。持病、悲恋、困窮、甥の放蕩など不遇と苦悩に満ちた生涯は勿論、第九を頂点とする名曲への言及や感謝にも最大限の共感と愛情が溢れている。歴史家見地よりも情熱が先走った趣きも読み物としての味。2022/04/18
新地学@児童書病発動中
115
苦しみの連続だったベートーヴェンの人生を、ロマン・ロランが敬愛をこめて綴る。耳の病気だけではなく、腹部の病気も抱えていたことはこの本を読んで初めて知った。肉親として愛情を感じていた弟の子供との諍いも痛ましい。数々の苦しみに屈することなく創作活動を続けたベートーヴェンの生き方に、強く励まされる。私が強く心を動かされたのは、自分のためではなく、他人のためだけに曲を作り続けるというベートーヴェンの無私の精神だ。ロランもこの精神を本書の中で強調している。ベートーヴェンの気高さを、たとえ僅かであっても学びたい。2017/11/12
aika
59
『苦悩を突き抜けて歓喜にいたれ!』聖職者や貴族のためでない、民衆に音楽を取り戻した楽聖の、貧しく困窮する人々のために、自らの命を削って生み出す魂の音楽と激動の生涯が、ロランの手で劇的に綴られています。幼少期の恵まれない家庭環境、貧困、失恋、そして音楽家にとって致命的な耳の病。これでもかと絶望しそうな苦悩に、希望を見いだす精神力、禍が幸福をもたらすとの信念が、後世を明るく照らす曲たちを生み出したのだと思いました。『悲愴』と名のついたピアノソナタに、どうしてこんなに心惹かれるのか、少し分かった気がします。2018/04/10
イプシロン
58
ひとりの人物を50年にもわたって崇敬し、その人が歩んだ生涯を真摯に調べたなら、多少の美化や神格化は止むをえないだろう。だから、この小冊子にはロランが抱いたベートーヴェンへの偏愛が無いとはいえない。が、ひとりの人物とそこまで真摯に向け合ってきた事実の前に、謙虚になれないなら本書を読む意味は薄いとえるだろう。一人物と向き合うということは、すなわち己自身と向き合う事でもあるからだ。――運命。それに掴まれたのは、ベートーヴェンだけだなく、ロランもまたそうだったのである。苦悩しのたうち回り、諦念するしかないと知る。2019/10/25
マエダ
49
生の虚無感を通過した危機に、私の内部に無限の生の火を点火してくれたのはベートベンであった。初ロマンだが文章が心地良い。 終始後書きを読んでいるようなお得感。2022/10/03