出版社内容情報
信じ切っていた友に裏切られ,人も世も神をも呪う世捨て人となったサイラスの唯一の慰めは金だった.だがその金も盗まれて絶望の淵に沈んだ彼に再び生きる希望を与えたのは,たまたま家に迷いこんできた幼児エピーの無心な姿だった.「大人のためのおとぎ話」として広く愛読されてきたエリオット(一八一九‐八〇)の名作.
内容説明
信じ切っていた友に裏切られ、人も世も神も呪う世捨て人となったサイラスの唯一の慰めは金だった。だがその金も盗まれて絶望の淵に沈んだ彼に再び生きることの希望を与えたのは、たまたま家に迷いこんできた幼児エピーの無心な姿だった。「大人のためのおとぎ話」として広く愛読されてきたエリオット(1819‐80)の名作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
393
心が明るく暖かくなるようなエンディングだ。直接は何の関係もないのだが、バーネットの『小公子』の結末に連想が重なった。またサイラスの造型は、これまたディケンズの『クリスマスキャロル』のスクルージを思わないでもない。いずれも19世紀のイギリス小説であり、ある種の共通したムードはあるかもしれない。この小説の成功はひとえにサイラスの造型にかかっているが、同時にイギリスの田園地帯にあると思われるラヴィロウが醸し出す風土感と、時代の持つ感じもまた物語に大いに寄与していると思われる。2019/05/17
しいたけ
116
裏切りと理不尽に打ちのめされ送る暗い生活。慰めとした貯えさえ盗まれる。サイラスの嘆きは、信じるものを持てない魂の呻き。そこに現れるみなしごとなった幼女。この子を愛おしみ育てることで彼が救われていく描写が胸を打つ。特に隣人ドリーの崇高さ。育児をなにくれなく手伝い、サイラスの話に耳を傾け、共に憤る。「教会で聞くことの意味だってよくわからないんですよ」という彼女が、いつも神を身近におき、御心を知ろうと努め、思い至った宝石の言葉を彼に語る。この素晴らしい隣人と、娘として育った愛らしいエピーに心を暖められた。2019/07/10
扉のこちら側
88
2017年16冊め。【257/G1000】親友に裏切られ、婚約者も奪われ、世の中も神様も呪いながら世捨て人のように生きるサイラス。唯一の慰めはお金で、ひらすらに絹を織り、爪に火をともすような生活でお金を貯めている。しかしそのお金も盗まれた絶望の中、行き倒れた女性の孤児が彼の家に飛び込んでくる。不幸体質という人はいるだろうが、変人のように思われても実直に生きる彼に周囲の人々も観方を変えていくのである。3分の2くらいに縮められそうだとは思いつつ、読後感はよい。2017/01/09
Willie the Wildcat
87
失望の果てに見出した光。主人公が、心底から「信」を捨てていなかったからこそ見いだすことができた光。生まれ故郷の再訪が、その心底検証の最後のステップ。真の意味での受容。ゴドフリーの受容も同様。”取引”も人間臭さ故であり、妻ナンシーが口にした「正しい悔恨」も、受容のために必要な過程。一方、弟ダンスタンの顛末は、兄とは対照的な因果応報を受容した感。ふと、「以前のままの生まれ故郷だとしたら、主人公の心にどのような変化を齎したか?」を考える。ヒトの心の温かみに触れた今は、もうぶれることもないかな。2022/04/19
NAO
58
何重もの不幸に見舞われたサイラスが、降誕祭の夜に得たエピーという宝物。細かく回りくどいような序盤とは打って変わって、エピーが登場するあたりから大きく展開する話にぐいぐい引き込まれていく。サイラスの失意も、彼が属していた宗教集団の実情も、ラヴィロウ村の領主家の不品行も、あまりにもさらりと書かれ過ぎていてリアリティがないが、それもおとぎ話らしさを出すため作者が故意に意図してしたことかもしれない。どこともわからない田舎の村で起こったクリスマスの奇蹟は、何とも言えない優しい気持ちになれる話だった。 2016/12/25