出版社内容情報
学生である主人公はある家の2階を借りてひと冬をすごすが,いつしかその家族の憂鬱な生活にひきずりこまれてゆく.昭和10年前後の思想弾圧の時代を背景として,貧しさのなかではてしなくつづく夫婦の葛藤と青年たちの暗い青春を描いた阿部知二(1903‐1973)の代表作.知識人の問題を捉えたものとして,その後の文学に重大な影響を及ぼした.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
michel
12
★4.3。ある一冬を霧島家に寄寓した私。そこでの生活はすべてが暗くて冷たい冬の色に塗られていた。嘉門、まつ子、輝雄、咲子。それぞれの人間関係の切断面を観察してやろうというつもりが、それは自分自身の投影ではないかと思い至る。ーいったい何のためにあんなばかばかしいところに帰ってゆくのか、いままで、あんな不便な下宿にいたことからして第一不思議なのだ。どうにもならない、どうやってもガラガラと坂路を転がり落ちていく霧島家なのに、なぜか私はその冬そこから抜け出せなかった。この感覚、とても良く表現せれていると思う。2020/12/31
Lieu
0
昭和十年頃の、卒業を控えた英文学専攻の大学生と下宿の夫婦の話。重々しくはないが、出口のない感じ。インテリの狡さとか、僻みのようなものがある主人公の目を通して見た人々は、矛盾しているが、逞しさがある。2019/12/12