出版社内容情報
明治・大正・昭和の東京を彩る私小説の主役たちがいる.徳田秋聲,正宗白鳥,葛西善蔵,宇野浩二,嘉村礒多,谷崎潤一郎,永井荷風らの東京とは.浮遊する都会人の心をたどり,現代人の出自が透し彫りにされる百年の物語.
内容説明
明治・大正・昭和の東京を彩る私小説の主役たちがいる。徳田秋声、正宗白鳥、葛西善蔵、宇野浩二、嘉村礒多、谷崎潤一郎、永井荷風らを育んだ東京、そして文学空間としての東京がある。浮遊する都会人の心をたどり、現代人の出自が透し彫りにされていく。これは我々の百年の物語への旅である。
目次
安易の風
窪溜の栖
楽しき独学
居馴れたところ
生きられない
何という不思議な
心やさしの男たち
無縁の夢
濡れた火宅
幼少の砌の
とりいそぎ略歴
命なりけり
肉体の専制
境を越えて
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
踊る猫
11
再読。氏が四十代半ばで達成した仕事であることを知り、自分の浅学非才を改めて恥じさせられる。徳田秋聲や宇野浩二といった「私小説」をここまで深く読み込んでいるとは、と思わされたのだった。とは言え内容はタイトル通り「東京」という土地に纏わる軽いエッセイで、古井氏の書物は取っつきにくいと思っている方でもすんなり読めるのではないか。氏の持つ空襲の苦い経験や、谷崎や荷風の小説から立ち昇る戦時中の風景が鮮やかな日本語で蘇る。悪く言えばその分氏の本としては相対的に纏まりはない(つまり、濃密さが足りない)一冊だが面白かった2016/08/26
hitotoseno
2
登場人物の行動からほの見える心理をこれ以上ない方法で取り出す手際は相変わらず。善蔵や磯多の私小説の主人公、『瘋癲老人日記』の老人に向けられた眼差しは、その書き手達自身にも及ぶのではないか。紹介文だけでも様々に考えようが生まれる。東京というと伝統がないような気もするが、流入者や戦争で焼け出された人間がかもしだす悲哀やおかしみからこそ、伝統(そう呼べるかはちょっと怪しいが)は見出されるのではないか。2011/10/24