出版社内容情報
18世紀のイギリスで誕生したゴシック(恐怖)小説の中で,ギリシア・ローマ以来の美の概念に大転換をもたらすようなことがなぜおこったのか.主要な作品を同時代の絵画にも言及しながら紹介し,ゴシック小説の再評価を試みる.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
夜間飛行
21
かつて日本がお手本にしたイギリスも、文化的劣等から這い上がろうとした時代があったのか。17世紀はのんびりしたものだ。金持の子弟が見栄でイタリアに留学したこと、電車も飛行機もなく徒歩で行ったことなど、わが明治の切羽詰まった性急さとはまるで違う。そのおかげで絵画のような精神性に惹かれたわけで、中でも古典に材をとった廃墟美やアルプス越えの崇高美に感銘したというのはとてもよく分かる。そういうゴシック小説の源流そのものも面白いけれど、現代文学にまで大きな影響を及ぼしていることを知るにつけ、ますます興味が膨らんだ。2013/08/09
袖崎いたる
12
ゴシック小説の重要性がここ最近唐突に膨らんだのでお勉強。セミナーの語りを読み物にしていて、入門にはいい塩梅だった。ぼくの読書歴だと『放浪者メルモス』が思い当たるジャンルだが、その本質が空間的で時間的な莫大な量感としての廃墟の表象に示されるものと知り、納得。そしてドイツと廃墟との繋がりに関する一年前からの疑問が氷解。この本のなかで、アメリカ小説が現代に至るまで全てがゴシック小説だという説を知り、パッと浮かぶのはキングくらいなぼくは「そうかもしんまい」と思ったり。『シャイニング』なんかはど真ん中だよな、うん。2016/06/01
みーこ@ただのねこ(春毛)
5
実際のセミナーの講義録を本にしたもの。話口調も分かりやすく、ちらっと現れるユーモアが面白く、楽しんで読めた。ゴシック(gothic)という単語の由来から、イギリスで流行ったゴシック小説が他国にも広まっていき、そしてどのように流行りが終息していったかまで幅広く説明されている。どうもセミナーブックスって面白そう。他も読んでみたい。2013/05/25
R子
4
大変読みやすく、面白かった。ゴシック小説は、怪奇・恐怖小説の類だと認識してはいた。しかし、何故建築様式で使われるはずの「ゴシック」という言葉が、小説のジャンル分けの言葉として使われるのか長らく疑問だった。本書を読んでその謎が氷解。当時のイギリスの流行からゴシック小説が誕生し、広まっていったのだということが分かった。また、『嵐が丘』の大胆な解釈も良かった。2012/11/05
Susumu Kobayashi
2
本家イギリスのゴシック小説を中心として、アメリカはもちろん、フランスやドイツへも視野を広げていて、ゴシック小説入門書としては(そもそも類書があまりないのだが)最適の本と思われるが、現在では入手が難しくなっているのは残念。ゴシック小説が推理小説やSFの大元にあることが納得できる。挙げてある作品を少しずつ読んでいきたい。2013/02/05