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六十二

福嶋亮大

「『神話が考える』を読むための32冊」

 


●福嶋亮大さんエッセイ
「『神話が考える』を読むための32冊」


 今年3月に、『神話が考える――ネットワーク社会の文化論』(青土社)という本を上梓しました。その目的は、一言で言えば、今の日本に存在するポップカルチャーに、何らかの思想的な表現を与えるということにありました。すなわち、ニコニコ動画から『∀ガンダム』、マーケティング理論から村上春樹、東方プロジェクトから『不思議の国のアリス』までを貫いている感性に、何か言葉を与えたかったのです。そして、そこで僕が選んだのは「神話」という言葉=コンセプトでした。

 批評というと、これまでは、イデオロギーに対する「批判」や「切断」をやる営みだということになっていました。けれども、そういう態度は、今は強い支持を得ることができません。それに、そもそも日本の批評の歴史をたどれば、決して批判≒切断ばかりやっていたわけではないことが分かります。たとえば、18世紀の本居宣長は『源氏物語』から「もののあはれ」という概念を抽出してきましたが、これはまさしく「あいまいに共有されている感性に思想的な言葉を与える」ような試みです。そしてその試みは、良い意味でも悪い意味でも、社会的な実効性を伴っていました。それと似たようなことを、これからの批評はもっと積極的にやっていく必要があるでしょう。『神話が考える』は、その一つの実践として読んで欲しいと思います。 今回は、執筆中に念頭に置いていた本を中心に選びました。もともと、『神話が考える』というのはサンプリングとコピーワークの産物なので、参照元の本も一緒に読んでもらうのがベターです。何にせよ、この選書が、新たな神話生成の一つのきっかけになってくれれば嬉しく思います。
 

【2010年6月】


●福嶋亮大さんプロフィール

(ふくしま・りょうた)

福嶋亮大さん1981年京都市生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学。専門は中国文学。現在、京都大学文学部非常勤講師。『思想地図』『ユリイカ』等に論考を寄稿。

●書籍PR

神話が考える――ネットワ−ク社会の文化論
(青土社、税込1,995円)

神話が考える――ネットワ−ク社会の文化論大きな物語の時代が終わり、小さな神話の時代が始まった。 ――レヴィ=ストロースから村上春樹を通り東方プロジェクトまで、広範な資料を注ぎ込み新たなスタンダードを提示する、「ゼロ年代批評最後の大物新人」の鮮烈なデビュー作。 文芸評論はようやく時代に追いついた。(東浩紀氏)




●福嶋亮大さん選書リスト

思想系
「近代」が「ポストモダン」によって乗り越えられたという言説は、すでに過去のものです。たとえば、ロールズやノージックのようなアメリカの自由主義者は、近代のオーソドックスな契約論に遡りながら「個や人格の不可侵性」「人間の複数性」を絶対的なルールとする社会像を構想しました。そのような近代の社会像は、ポストモダンと呼ばれる今日においてこそ、ますます世界じゅうに浸透していると言うべきです。ただし、この原理原則だけでは、真に創造性に富んだ社会秩序の形成にはおそらく足りません。 現代の課題は、不可避の誤謬に囚われた――ドゥルーズふうに言えば「超越論的に愚かな」――人間たちが、互いの不可侵性を破ることなく、いかに豊かな秩序を立ち上げられるかということにあります。かくして、近代的な原理原則の余白を埋めるべく、コミュニティ(コミュニケーション)やネットワークの問題が再来してきます。このあたりのメカニズムを、全体として把握するのに向いた本を挙げてみます。

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1.
世界コミュニケ−ション

世界コミュニケ−ション

ノルベルト・ボルツ / 東京大学出版会
2002/12出版
ISBN : 9784130100908
290, 20cm
¥3,990(税込)
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■思想系
ボルツはドイツの社会学者。ベンヤミンやシュミットを近代の破壊者(幻滅者)として読解する研究からキャリアを始め、後にルーマンのシステム論に傾斜しました。本書は『神話が考える』のタネ本で、コミュニケーションの拡大が時間と注意力の絶対的不足を招くこと、「理論の無視界飛行」を強いられる社会的状況下では粛々と「draw a distinction(=区別する)」を実行していくしかないこと等々、現代社会の理解に欠かせない論点が盛り込まれています。
2.
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ヘ−ゲルとフランス革命

ヨアヒム・リッタ− / 理想社
1983/03出版
ISBN : 9784650104110
165p 19cm
¥1,365(税込)
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■思想系
このヘーゲル論の最大のポイントは、ヘーゲル=国家主義者という通念に挑戦したことです。リッターによれば、ヘーゲルは「社会とは歴史を持たない自然である」ことを強調した市民社会の哲学者。本書からは、今日の社会のプロトコルが、依然としてヘーゲルの延長にあることが分かります。F・フクヤマの本と併読してください。
3.
やきもち焼きの土器つくり

やきもち焼きの土器つくり

クロ−ド・レヴィ・ストロ−ス / みすず書房
1997/06出版
ISBN : 9784622049043
315, 20cm
¥3,990(税込)
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■思想系
レヴィ=ストロースが主導した構造主義は、要素ではなく、要素と要素の関係を観察対象とする思想です。その点で、「関係の可視化」を進める現代のネットカルチャーが、構造主義的分析の対象になるのは決して不思議ではありません。本書はレヴィ=ストロースの代表作『野生の思考』と『神話論理』の中間的な本(論文集)で、彼の多彩なアイディアが集められています。
4.
画像は準備中です

啓蒙とは何か 他4編

イマ−ヌエル・カント / 岩波書店
1983/09出版
ISBN : 9784003362525
207, 15cm
¥630(税込)
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■思想系
カントは、公私の峻別を唱えた最初の哲学者です。カントの考えでは、公共性は共同体の外に、つまり特定の利害関係の外にあります。近代民主主義における「公」のイメージは、このカント的図式によって強く拘束されています。
5.
偶然性・アイロニ−・連帯

偶然性・アイロニ−・連帯 リベラル・ユ−トピアの可能性

リチャ−ド・ロ−ティ / 岩波書店
2000/10出版
ISBN : 9784000004497
429, 20cm
¥3,990(税込)
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■思想系
ローティの公私の区別は、カントの公私の区別と対照的です。ローティ的に言えば、社会に公的効果をもたらすのは「残酷さ」や「悪」にまつわるシミュレーションの累積。つまり、社会がいつでもネガティヴな方向に転び得ることに注意を喚起し続けるのが、リベラル社会の「新しい公共」です。昨今の道徳主義的表現規制の風潮との落差を見極めてください。
6.
民主主義の逆説

民主主義の逆説

シャンタル・ムフ / 以文社
2006/07出版
ISBN : 9784753102488
224p 20cm
¥2,625(税込)
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■思想系
ムフの教説は、主にシュミットやヴィトゲンシュタインの再読によって支えられています。特に、闘技的民主主義(agonistic democracy)のアイディアは重要。我々は、一つの政治的目的は共有できなくても、抗争する二つの目的あるいは価値体系なら認知可能であり、かつそのような「闘技」(×討議)なしでは民主主義は座礁するとムフは言います。多元的民主主義の「幻想」を維持するには、闘技の演出が必須というわけです。
7.
歴史は「べき乗則」で動く

歴史は「べき乗則」で動く 種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学

マ−ク・ブキャナン / 早川書房
2009/08出版
ISBN : 9784150503581
387p 15cm
¥882(税込)
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■思想系
統計物理学の観点から、最近流行の「べき乗」分布の問題(グーテンベルク=リヒター則)を説明した啓蒙書。今後の実り豊かな社会設計を考える上で、複雑系ネットワークの理論は一つの有力な方向性を示しています。

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