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五十三

山室信一

戦争と人間そして非戦

 


●山室信一さんエッセイ


 8月になるとメディアにおいても戦争や原爆などをテーマに取り上げることが慣例となってきました。そのように単なる年中行事となっていることに違和感を覚え、惰性となっていることに倦んでしまい、却って戦争という今も絶えることのない事態から目を「背けさせる」ことになっていることも否定できない事実のようです。

 しかし、世代の問題かもしれませんが、私自身は小学生の頃から、夏になれば戦争に係わるものを半ば慣習のように手に取ってきました。そして、1980年代からはアジア各地の戦跡や博物館を巡る旅を続けてきました。日本から数千キロも離れた灼熱のジャングルのなかに立つとき、故地で平穏な生活を送っていた人たちがなぜ一面識もなかった人と殺し合い、憎み合うことを強要されなければならなかったかという疑念をぬぐい去ることができません。その想いを反芻しながら今夏もまた戦争に係わる本を手にすることだけが私個人にできることなのですが、今回はいつも読まれる本の他に是非一冊でも加えて戴きたいと願う著作を選んでみました。

 私自身、直接的には戦争の体験も記憶もなく、ただ傷痍軍人の人たちの姿や占領軍の兵舎などを目にした記憶から戦争を想像することしかできません。しかし、それだからこそ戦後64年を経て戦後生まれが8割近くになった中で体験してはならない殺傷行為としての戦争を、体験のない世代がいかに受け継ぎ伝えていくのか、という問題がさらに深く考えなければならない段階に入っているようにも思われます。他方、矛盾するようですが、私が生まれてきて以来、日本が直接に参戦していないにせよ、世界のどこかで絶えることのなかった戦争について、どのように対処していくべきなのか、それを知らせる任務を担うのは誰なのか、を考えることも忘れてはならないはずです。

 現代の戦争では、死者の9割は一般の市民になっています。戦争とは決して兵士だけの問題ではないのです。そして、日本では来年5月には、いわゆる「憲法改正に関する国民投票法」が施行されますから、第9条をはじめとする憲法のあり方を国際的な視点から構想していくことが要請されてきます。

 人々は兵士としてまたジャーナリストやその家族として、戦争といかに関わってきたのか、また植民地を含む無辜の人々にとって戦争とは戦後とは何だったのか、そして今後の国際社会のなかで日本が果たしうる役割とは、いかなるものなのか・・・等々のことを考える際に、私にとって有益であった本を挙げてみましたが、その中の1冊でも平和構築国家としての日本の行く末を見定め考えて戴くための手がかりになることを祈念してやみません。

【山室信一】


●山室信一さんプロフィール


山室信一さん(やまむろ・しんいち)

1951年、熊本市生まれ。東京大学法学部卒業。
衆議院法制局参事、東京大学社会科学研究所助手、東北大学助教授などを経て、京都大学人文科学研究所教授(法政思想連鎖史)。著書に『法制官僚の時代―国家の設計と知の歴程』『近代日本の知と政治―井上毅から大衆演芸まで』(木鐸社)、『思想課題としてのアジア―基軸・連鎖・投企』『ユーラシアの岸辺から―同時代としてのアジアへ』(岩波書店)、『増補版 キメラ―満州国の肖像』(中公新書)、『日露戦争の世紀―連鎖視点から見る日本と世界』(岩波新書)、『Manchuria under Japanese Dominion Encounters with Asia』 (University of Pennsylvania Press)



●山室信一さん著書リスト

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1.
明六雑誌

明六雑誌 上

山室信一 / 岩波書店
1999/05出版
ISBN : 9784003313015
469p 15cm
¥903(税込)
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2.
明六雑誌

明六雑誌 中

山室信一 / 岩波書店
2008/06出版
ISBN : 9784003313022
436p 15cm
¥987(税込)
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3.
明六雑誌

明六雑誌 下

山室信一 / 岩波書店
2009/08出版
ISBN : 9784003313039
517, 15cm
¥1,260(税込)
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編集担当者のことば
岩波文庫版『明六雑誌』がついに完結いたしました。完結するまでに10年以上もかかってしまい、誠に申し訳ありませんでした。
『明六雑誌』が発行されていた頃は正書法がまだ固まっておらず、ほとんど漢字カタカナまじり文となっていて、句読点もないなど、そのままでは一般読者にはかなり読みにくいものです。岩波文庫版では、漢字平がな文に改め、句読点を適宜補い、難読の漢字には読み仮名を付す等の表記上の整理をおこなって、読みやすいテキスト作りを追求しました。脚注や各論説の梗概も付し、「執筆者略年譜」「執筆者別論説索引・掲載一覧表」「語句索引」など、付録も充実させました。上巻と下巻にはそれぞれ、異なる角度から書かれた中野目徹先生と山室信一先生の詳しい「解説」を収録しました。とりわけ下巻所収の「語句索引」は、中野目先生が多大な労力をかけて作成されたものです。
近代日本思想を考えるうえで欠くことのできない基本文献として名ばかり有名な『明六雑誌』ですが、この岩波文庫版の刊行によって、今までよりも少しでも身近な存在になれば幸いです。(岩波文庫編集部 市こうた)
4.
憲法9条の思想水脈

憲法9条の思想水脈

山室信一 / 朝日新聞出版
2007/06出版
ISBN : 9784022599230
289p 19cm
¥1,365(税込)
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8月6日、麻生首相は広島で「恒久平和の実現に向けて国際社会の先頭に立つ」と表明し、同時にアメリカの「核の傘」の必要性も強調した。
日本では幕末以降、平和希求の思想が絶えず現れてきた。憲法9条は戦後突然生まれたものではない。 その脈々たる流れを世界史的な観点で現代まで丹念にたどる本書は、オバマのプラハ演説を機に日本人が21世紀の世界平和を考える際の最適のテキストになるだろう。第11回司馬遼太郎賞受賞。(朝日新聞出版 岡恵里)
5.
日露戦争の世紀

日露戦争の世紀 連鎖視点から見る日本と世界

山室信一 / 岩波書店
2005/07出版
ISBN : 9784004309581
249, 18cm
¥819(税込)
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6.
キメラ

キメラ 満洲国の肖像

山室信一 / 中央公論新社
2004/07出版
ISBN : 9784121911384
428p 18cm
¥1,008(税込)
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7.
ユ−ラシアの岸辺から

ユ−ラシアの岸辺から 同時代としてのアジアへ

山室信一 / 岩波書店
2003/03出版
ISBN : 9784000023528
315, 20cm
¥3,360(税込)
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8.
思想課題としてのアジア

思想課題としてのアジア 基軸・連鎖・投企

山室信一 / 岩波書店
2001/11出版
ISBN : 9784000233491
798, 22cm
¥8,400(税込)
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9.
近代日本における東アジア問題

近代日本における東アジア問題

古屋哲夫 / 吉川弘文館
2001/01出版
ISBN : 9784642037341
307p 22cm
¥8,400(税込)
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10.
Manchuria under Japanese Dominion

Manchuria under Japanese Dominion

Shin'ichi, Yamamuro/ Fogel, Joshua A./ Yamamuro, Shinichi / Univ of Pennsylvania Pr
2006/01出版
ISBN : 9780812239126
335 p.

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